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熊本地方裁判所 昭和23年(ヨ)184号 判決

申請人

白井辰喜

外五名

被申請人

熊本電気鉄道株式会社

主文

申請人等より被申請人等に対する当庁昭和二十三年(ワ)第四一五号組合解散無効確認等事件の本案判決確定に至る迄申請人等がそれぞれ仮りに被申請会社の従業員であると云う地位を定める。

申請人等のその与の申請はこれを却下する。

訴訟費用はこれを二分しその一を申請人等の負担とし、その余を被申請会社の負担とする。

申請の趣旨

申請代理人は被申請会社に対する関係に於て「本案判決確定に至る迄(一)被申請会社の従業員を以て昭和二十一年三月七日設立し同年四月十八日熊本県知事にその設立届出をなした熊本電気鉄道労働組合は存在するものとする。(二)申請人等が被申請会社の従業員である地位を定める。」旨の、又被申請組合に対する関係に於て「本案判決確定に至る迄(一)被申請会社の従業員を以て昭和二十一年三月七日設立し同年四月十八日熊本県知事にその設立届出をなした熊本電気鉄道労働組合は存在するものとする。(二)被申請組合はその組合行動を停止しなければならない。」旨の各裁判を求めた。

事実

被申請会社は旧社名を菊池電気鉄道株式会社と称したが、その後現在の如く改称し、陸上交通運輸事業を営んで居る会社である。同会社の従業員は昭和二十一年三月七日労働組合を設立し、その名称を菊池電気鉄道従業員労働組合と定め、同年四月十八日熊本県知事にその旨届出をなし、その後前記被申請会社の社名変更に伴ひ熊本電気鉄道労働組合と改称したものであつて、(以下同組合を旧組合と略称する)申請人等は何れも右組合の組合員で申請人白井辰喜は輸送復興常任委員、同上村義男は執行委員兼企画調査部長、同川口利光は執行委員、同金光直敏は委員、同菊川睦夫は調査部員、同佐藤重治は青年部委員であつた。而して同組合は組合規約に解散に関する規定がなく従つて解散については労働組合法第十四条第三号の規定によることとなつて居たが、昭和二十三年八月十三日の臨時総会に於て組合解散の決議をなし、右決議により組合は解散したものとして翌十四日熊本県知事に対し解散届出をなした。然し乍ら右決議及びこれに基く解散届出は次の如き理由により無効である。即ち

(一)  旧組合の規約によれば総会に諮る事項は規約の変更、労働争議に関する事項、収支予算並びに組合費の額及びその徴収方法の外委員会に於て必要と認むる事項となつて居り(第十七条第一号乃至第四号)右総会に諮るべき事項については予め委員会に諮ることとなつている(第二十条)から組合の重要事項は委員会の協議決定を経なければならないのであるが、解散問題は最重要問題として右規定により先づ委員会に於て組合総会に附議することを決定した上でなければならないのに、右解散決議は委員会の決議を経ずして前記臨時総会に附議せられたものであるから右規約第十七条に違反する。

(二)  又同規約によれば組合総会は組合の最高決議機関で代議員(組合の役員たる委員及び執行委員以外の組合員中から各課班を単位として各課班の組合員数の三十パーセントに相当する員数が総会の都度選出せられ、当該総会の附議事項として予め組合員に通知せられた議題についてのみ議決権を行使し得るもの)、委員、執行委員を以て構成せられ、(第十四条)召集は原則として遅くとも会日の五日前に議案、日時、場所を各組合員に通知してこれをなさねばならぬ(第十八条本文)けれども緊急を要する場合はこの限りでない(同条但書)こととなつているが、組合解散の問題は組合にとり慎重審議を要する重要問題であるから組合員各自にその趣旨を徹底せしめ、組合員各自の熟慮研究と代議員、委員、執行委員をして組合員各自の意志を把握せしめるため相当の猶予期間を置かねばならぬものであつて、当然右原則に従い会日の五日前に前記通知をなして招集した総会に於てのみ審議し得る事項であり、総会開催中の動議等に基き審議し得るものではない。然るに右決議は右所定の手続を経ずして招集開催せられた臨時総会に於て、而も後記の如く開会中突如一部の者の発言に基き附議せられたものであるから右規約第十八条に違反する。

(三)  前記臨時総会に於ては同年七月分の暫定給与問題、同月分以降の本格的賃金要求問題及び組合員間の紛糾問題を議案として右順序に従い附議する旨同年八月十一日の第三回闘争委員会に於て決定して居たに拘らず、議論沸騰の末直ちに組合員間の紛糾問題即ち申請人白井辰喜に於て組合幹部の一部が社長の饗応を受けた事実を指摘し、会社が組合を御用組合化せんとする陰謀を有する旨の一部組合員から転聞した事実を委員会にて発表したことが問題化したため生じた同申請人の責任処置問題及び組合役員の組合に対する配給煙草の不正横流に関する真相糾明問題を一括して先議することとなり、委員長の議案の経過報告が終るや組合解散を主張する者より当時闘争委員であつた申請人白井に対し同人が共産党の主義政策に基き組合を撹乱するものであるとして非難攻撃し、これを否定する者との間に論争を生じたが、その最中解散派の者より組合解散を発言したところ議長は動議でもない単なる右発言に基き組合解散の可否の採決に入る旨宣言し、採決の方法を諮り討議の末結局挙手の方法によることに決定し、採決の結果解散派は挙手賛成者少数とみるや係長級二、三名の者より議長を無視して解散を可とする者の起立を命じ、起立者少数と見て右一派は更に議長を無視して賛否により左右に分立することを命じ、その間態度の表明を躊躇している者に対し種々威圧干渉を加え、解散賛成側に狩立て、遂に法定の四分の三以上の多数の賛成を得て申請人等解散を否とする者の主張は敗れ組合解散の決議が形式上成立したが、右決議には議決権を有しない大会書記二名傍聴者一名も加わつていたものでその採決の方法にも右の如き違法の点がある。

然るに右解散派は右解散が有効であることを前提として同月十七日新に被申請組合を設立し、同月二十三日熊本県知事にその旨届出を了し、被申請会社と共に旧組合の解散消滅及び申請人等が労働組合員でない旨主張するのであるが、前叙の如く昭和二十三年八月十三日の臨時総会に於ける解散決議及びこれに基きなされた解散届出は無効であるから右組合解散を前提としてなされた被申請組合の成立及びその届出も亦無効である。

然るに被申請会社は同月十五日申請人等に対し都合により解職する旨の同月十六日附解雇辞令を送達したが、右解雇は次の如き理由で無効である。即ち

(一)  右解雇については当時被申請会社は申請人等の質疑に対して何等その理由を示さなかつたので、申請人等は右辞令を返戻して熊本地方労働委員会に組合解散無効労働組合法第十一条違反等を理由として提訴した結果、同委員会の第一回委員総会に於て組合解散は有効なりとの裁決があつたが、その第二回総会に於て労働組合法第十一条違反の問題が審議せられた際労働者側委員よりの質疑に対して被申請会社は解雇の理由を遂に明かにし得なかつたのであつて、このことは解雇の真の理由は専ら申請人等が旧組合の中堅幹部として組合活動に熱心であつたと云う点に存することを裏付けるもので、該解職処分は明かに労働組合法第十一条に違反する。(尤も右労働委員会に於ては採決の結果右解雇は同法条違反とならない旨の裁決があつたが、右裁決に至つた理由は右解散が有効である以上解雇の理由は認められないが、組合解散中の解雇であるから違反とならないとの見解に基くものである。)

(二)  旧組合は昭和二十三年六月一日被申請会社との間に労働協約を締結し、従業員の人事に関しては人事委員会を設け組合と会社との協議を以て行い、一方的に行わない旨を約諾している(第七条)のであつて、前記の如く右解散が無効である以上右労働協約は依然有効であるから被申請会社が組合との協議を経ないで一方的になした右解雇は該協約第七条に違反する。

(三)  被申請会社は右解雇通知と同時に労働基準法第二十条所定の三十日分の平均賃金を受領すべき旨通告をなした侭申請人等の受領拒絶を理由にこれを弁済供託したが、解雇後の給料の支払は申請人等の住所に持参して支払うべきものであるのに拘らず右の如く債務の本旨に従つた弁済の提供がなかつたのであるから右供託は無効であり、従つて未だ右賃金の支払がないから本件解雇は同条に違反する。

(四)  以上何れも理由なしとするも被申請組合は本件解散決議のなされた当日から設立の準備が進められ、同月十七日には早くも設立せられたのであるが、新組合の規約及びこれと被申請会社との間に締結せられた労働協約は旧組合の規約及び旧協約と殆んど同一でその主要点に於ては相違はなく右解散は組合自体の必要に基くものではないのであつて、右は全く会社及びこれと通ずる一部組合幹部とが組合の利益擁護に熱心な申請人等を会社から除き組合を御用組合化せんがため行つたもので、その間僅かに三日間の空白期間の労働協約不存在を主張し、申請人等を解雇したものであるから右解雇は労働組合法第十一条の説法行為と選ぶところなく、もとより正当の理由に基かないものであるから民法第一条に所謂権利の濫用である。

以上の如くであるから申請人等は昭和二十三年十二月十四日被申請人等に対し右解散決議及びその解散届出被申請組合の設立及びその届出の無効確認、被申請会社に対し右解職処分の無効確認を求むる訴を熊本地方裁判所に提起し右は同庁昭和二十三年(ワ)第四一五号事件として受理繋属中である。然し乍ら右本案判決確定を待つときは、その間正当の組合でなく被申請会社の御用組合である被申請組合の役員により従業員の幾多の権益主張は封鎖蹂躙せられるのみならず、申請人等はその間給料の支払を受くることを得ず、現今の如き物価昂騰の経済社会情勢下に於ては回復し難い損害を蒙る虞れがあるので、右著しい損害を受けたがため本件仮処分申請に及んだ旨陳述し、被申請人等の抗弁を否認し権利又は法律関係の存在不存在の確認を求むる訴に於ける権利又は法律関係は訴訟の当事者間に於けるものたるを要せず、当事者の一方と第三者との間の法律関係についてもこれを争う者があるときはその者に対し確認を求め得るものであつて、被申請人等は本件解散決議の有効を主張し旧組合の存在及びこれによつて締結せられた労働協約の効力を否定し以て申請人等の法律関係を不明確にし、その権利地位を脅しているのであるから申請人等は被申請人等に対し右解散決議の無効であることの確認を求むる利益を有し、従つて当事者適格を有するものである。又被申請組合の活動停止の仮処分によりその組合活動が停止せられるときはこれと同時に必然的に旧組合の活動開始を伴いその実質上の変化は昭和二十三年八月十三日の解散決議当時の組合役員が現役員に代つて組合事務を担当するに至ると云うのみの変化に止るものであるから右仮処分は何等必要の程度を超えるものではない。尚本件決議に於ては申請人主張の議決権のない者を除いても尚四分の三以上の賛成者があつたことはこれを認める旨附陳した。

被申請会社代理人等は「申請人等の申請はこれを却下する。訴訟費用は申請人等の負担とする。」旨の裁判を求め先づ抗弁として仮りに旧組合が存在するものとしても申請人等は組合の代表者ではなく単なる組合員に過ぎないから旧組合に対して組合の存在を主張して仮処分申請をなすならば兎も角、然らずして直接第三者たる被申請会社に向つて仮処分申請をなす資格はないから本件申請は不適法である旨述べ、申請人等主張事実に対し右主張事実中被申請会社が申請人等主張の如き会社であり、申請人等主張の日その主張の如くにして旧組合が設立せられるに至つたこと申請人等が右組合の組合員であつてその組合に於ける地位が申請人等主張の如くであつたこと同組合の規約に解散に関する規定がなく労働組合法の規定によることゝなつていたこと同組合が申請人等主張の臨時組合総会に於て解散決議をなし、主張の日解散届出をなしたこと同組合の組合総会の性格構成招集方法諮問事項に関し申請人等主張の如き文言の組合規約の存すること(但し代議員の議決権の制限の点を除く)、右臨時総会に於ける解散決議が委員会の決議を経ていないこと組合解散問題が慎重審議を要する重要問題であること該総会が規約第十八条本文の通常の手続によらず、緊急を要する場合として招集通知から会日迄に五日間の猶予期間を置かずして開かれたものであること右総会に於ける議案及び議事の予定順序議事の経過採決方法が申請人等主張の如くであつたこと(但し採決方法を変更した理由、解散問題が動議に非ずして単なる発言に基き附議せられたとの点及び議長を無視し且威圧干渉が行われたとの点を除く)申請人等主張の日被申請組合が設立せられ、主張の日その旨の届出がなされたこと被申請人等が旧組合の解散消滅を主張し申請人等の労働組合員たることを否定していること被申請会社が申請人等主張の日申請人等に対しその主張の如く解雇の辞令を送達したこと被申請会社が申請人等の質疑に対し解雇理由を示さなかつたこと申請人等が右辞令を返戻して熊本地方労働委員会に対しその主張の如き提訴をなし、右委員会に於て主張の如き趣旨の裁決があつたこと右委員会の第二回委員総会に於て被申請会社がその解雇理由を明示しなかつたこと申請人等主張の日被申請会社と旧組合との間にその主張の如き労働協約が締結せられたこと被申請組合の規約及び同組合と被申請会社との間の労働協約が旧組合の規約及び旧組合と被申請会社との間の労働協約とそれぞれ殆んど同一内容であること被申請会社が労働基準法所定の平均賃金の支払通知をなし受領を催告したが、申請人等が受領しなかつたので昭和二十三年十月二十四日弁済供託したこと申請人等主張の日申請人等が熊本地方裁判所に対し被申請人等を相手取りその主張の如き訴を提起し主張の如く現に訴訟繋属中であることはこれを認めるがその他はすべて否認する。右臨時総会に於ては一部組合員が組合の信用を失墜するが如き虚偽の風説を流布したため、多数組合員は会社に対する賃金増額及び労働条件の改善等に関する要求貫徹に重大な支障を来す虞れがあるから旧組合を解散して明朗強個な新組合を設立することの急務であることを自覚して、緊急に解散の必要ありと認め、右総会に於て動議に基き解散問題を附議し、四分の三以上の多数の賛成を得て組合解散の決議をなしたものである。而して旧組合の規約第十七条第四号は委員会に於て必要と認めた事項は総会に附議し得る旨を示したに止まり、同条第一号乃至第三号に列挙した事項以外は委員会に於て総会に附議する旨の決議がなければ総会に附議し得ない趣旨ではなく元来総会は組合の最高決議機関であるからこれより下級の機関である委員会の決議如何に拘束せられることなく如何なる事項でも附議決定し得るものである。又特に明文のない以上組合解散問題を議決するには規約第十八条本文の原則的手続により招集せられた総会でなければこれをなし得ない理由はなく、動議により議決し得ない理由もない。加之右解散問題は委員会の協議決定を経て居らず予め議案として通知せられていなかつたとは云え開会当時既に前記の如き情勢にあつたので組合員間の紛糾問題は必然組合解散問題に発展する可能性は十分一般に認識せられていたところである。更に採決の方法については議長は最初挙手の方法によつたが、議場混乱して挙手者を確認し得なかつたので賛成者起立の方法を採つたが、これ亦混乱のため確認し難かつたので賛否両者を左右に分立せしめたに過ぎず、その間議長を無視した事実及び威圧干渉の行われた事実はなく、議決権のない大会書記二名傍聴者一名が表決に加はつた事実はあるが、これを除いても賛成者は四分の三以上の多数であつたから、採決方法についても何等違法の点はない。以上の如くであるから右解散決議は適法有効であつて旧組合は解散に因り消滅しその届出も完了したものである。申請人等は元来被申請会社に於ける労働能率低下の原動力となつていたものであるから経営上人件費を節減するため、前記の如く労働基準法所定の手続に従い申請人等を解雇したものであり、右解雇は同人等が組合活動をなしたことを理由とするものではなく、又右の如く組合の解散後解雇したものであるから、当時申請人等は労働組合員ではなく、労働組合法の適用を受けず、従つて該解雇は同法第十一条違反とはならないし、且旧組合との間に締結した労働協約は右解散により既に失効した後であるから協約違反の問題を生ずる余地もない。更に又解雇に際して支払うべき労働基準法所定の平均賃金の支払場所は会社であつて持参債務ではないから、前記弁済供託は有効である。従つて本件解雇には同法違反の点もない。以上の如く申請人等には本件仮処分の被保全権利がないから本件仮処分申請は失当であるのみならず、仮りに右権利があるとしても既に地方労働委員会に於て解散を有効なりと裁決した以上申請人等が被申請会社の従業員たる地位を仮定する仮処分は仮処分として必要の程度を超ゆるもので許さるべきものではないから本件申請は却下せらるべきものである旨述べた。

被申請組合代理人は「申請人等の申請はこれを却下する。訴訟費用は申請人等の負担とする。」旨の裁判を求め先づ抗弁として本件仮処分申請は旧組合の存在を仮定するためのものであるから、旧組合を相手取るべきもので新組合たる被申請組合を相手方とする本件申請は不適法である旨述べ申請人等主張事実に対し右主張事実中被申請会社が申請人等主張の如き会社であり、申請人等主張の日その主張の如くにして旧組合が設立せられるに至つたこと申請人等が右組合の組合員であつてその組合に於ける地位が申請人等主張の如くであつたこと右組合の規約に解散に関する規定がなく労働組合法の規定によることとなつていたこと同組合が申請人等主張の臨時組合総会に於て解散決議をなしその主張の日解散届出をなしたこと同組合の組合総会の性格、構成、招集方法諮問事項に関し申請人等主張の如き文言の組合規約の存すること(但し代議員の議決権の制限の点を除く)組合解散問題が慎重審議を要する重要問題であること右臨時総会に於ける解散決議が委員会の決議を経ていないこと該総会が規約第十八条本文の通常の手続によらず、緊急を要する場合として招集通知から会日迄に五日間の猶予期間を置かずして開かれたものであること右総会に於ける議案及び議事の予定順序議事の経過採決方法が申請人等主張の如くであつたこと(但し採決方法を変更した理由、解散問題が動議でない単なる発言に基き附議せられたとの点及び議長を無視し且威圧干渉が行われたとの点を除く)申請人等主張の日被申請組合が設立せられ主張の日その旨届出がなされたこと被申請人等が旧組合の解散消滅を主張し申請人等の労働組合員たることを否定していること申請人等が熊本地方労働委員会に主張の如き提訴をなしたこと申請人等主張の日被申請会社と旧組合との間に主張の如き労働協約が締結せられたこと被申請組合の規約及び同組合と被申請会社との間の労働協約が旧組合規約及び旧組合と被申請会社との間の労働協約とそれぞれ殆んど同一内容であること申請人等主張の日申請人等が熊本地方裁判所に対し被申請人等を相手取りその主張の如き訴を提起し主張の如く目下訴訟繋属中であることはこれを認めるがその他被申請組合との関係の主張事実は否認する。右臨時総会に於ては一部組合員が組合の信用を失墜するが如き虚偽の風説を流布したため、多数組合員は会社に対する賃金増額及び労働条件の改善等に関する要求貫徹に重大な支障を来す虞れがあるから、旧組合を解散して明朗強固な新組合を設立することの急務であることを自覚して緊急に解散の必要ありと認め、右総会に於て動議に基き解散問題を附議し、四分の三以上の多数の賛成を得て組合解散の決議をなしたのである。而して旧組合の規約第十七条第四号は委員会に於て必要と認めた事項は総会に附議し得る旨を示したに止まり同条第一号乃至第三号に列挙した事項以外は委員会に於て総会に附議する旨の決議がなければ総会に附議し得ない趣旨ではなく、元来総会は組合の最高決議機関であるからこれよりも下級の機関である委員会の決議如何に拘束せられることなく如何なる事項でも附議決定し得るものである。又特に明文のない以上組合解散問題を議決するには規約第十八条本文の原則的手続により招集せられた総会でなければこれをなし得ない理由はなく動議により議決し得ない理由もない。加之右解散問題は委員会の協議決定を経て居らず予め議案として通知せられていなかつたとは云え、開会当時既に前記の如き情勢にあつたので組合員間の紛糾問題は必然組合解散問題に発展する可能性は十分一般に認識せられていたところである。更に議決の方法については議長は最初挙手の方法によつたが議場混乱して挙手者を確認し得なかつたので、賛成者起立の方法を採つたが、これ亦混乱のため確認し難かつたので賛否両者を左右に分立せしめたに過ぎず、その間議長を無視した事実及び威圧干渉の行われた事実はなく、議決権のない大会書記二名傍聴者一名が表決に加わつた事実はあるがこれを除いても賛成者は四分の三以上の多数であつたから採決の方法についても何等違法の点はない。以上の如く右解散決議は適法有効であつて旧組合は解散に因り消滅し、その届出も完了したものであるから申請人等には本件仮処分の被保全権利がなく、従つて本件仮処分申請は失当であるのみならず、仮りに右権利があるとしても交通機関は社会の公器で公益に重大な関係を有するからこれに従事する従業員を以て組織する組合の行動を停止することは社会問題であり、又申請人等僅か数名の者の利益のために三百二十余名の他の組合員の権利を害するが如き仮処分は法の保護精神に反し必要の程度を超えるもので許さるべきではないから、本件申請は却下せらるべきものである旨述べた。(疎明省略)

理由

仍て先づ旧組合の組合員たる申請人等が旧組合の存在を主張してなす本件仮処分申請は旧組合を相手方とすべきものであるのに第三者たる地位にある被申請人等を相手方としているから不適法である旨の被申請人等の抗弁について按ずれば旧組合の組合員たる申請人等が被申請会社及び新組合たる被申請組合に対し旧組合の解散決議の無効確認を求むる本件に於ては被申請人等は争ある権利関係の当事者ではなく第三者たる地位に在るものと謂うべきであるが、凡そ確認の訴に於ては通常法律関係の当事者間に限りこれを許されるものであるけれども訴訟の当事者の一方と第三者との間の法律関係と雖、その不明確が延て当事者間の法律関係の不明確を来す結果、原告たるべき者の法律上の地位に不安を生じた場合はその者は確認の訴の正当なる当事者たり得るものと解すべきであつて、被申請人等が旧組合の解散消滅を主張する以上、右旧組合の存否は申請人等の地位に直ちに重大なる影響を及ぼすことは本件申請理由自体に徴し容易に察知し得るところであるから、申請人等は本件について当事者適格を有し本件仮処分申請が訴訟要件を具備するものであること明白で右抗弁は理由がない。而して被申請会社が旧社名を菊池電気鉄道株式会社と称し、陸上交通運輸事業を営む会社であること昭和二十一年三月七日同会社の従業員が労働組合を設立し、その名称を菊池電気鉄道従業員労働組合と定め、同年四月十八日熊本県知事にその旨届出をなしたことその後同組合が被申請会社の社名変更に伴い熊本電気鉄道労働組合と改称したこと申請人等が右組合の組合員であつて申請人白井辰喜が輸送復興常任委員、同上村義男は執行委員兼企画調査部長同川口利光は執行委員同金光直敏は委員、同菊川睦夫は調査部員、同佐藤重治は青年部委員であつたこと右組合規約には解散に関する規定がなく、従つて解散については労働組合法第十四条第三号の規定によることゝなつていたこと同組合が昭和二十三年八月十三日の臨時組合総会に於て組合解散の決議をなし、これにより組合は解散したものとして翌十四日熊本県知事に対し解散届出をなしたこと同月十七日被申請組合が設立せられ同月二十三日熊本県知事に対しその旨届出をなしたこと被申請等が旧組合の解散消滅を主張し申請人等の労働組合員たることを否定していること申請人等が同年十二月十四日熊本地方裁判所に対し被申請人等を相手取り右解散決議及びその解散届出被申請組合の設立及びその届出の無効確認を、被申請会社を相手取り右解職処分の無効確認を各求むる訴を提起し右は同庁昭和二十三年(ワ)第四一五号事件として受理繋属中であることは被申請人両名に対する関係に於て又同年八月十五日被申請会社が申請人等に対し都合により申請人等を解雇する旨同月十六日附解雇辞令を送達したことは被申請会社との関係に於てそれぞれ当事者間に争のないところである。然るに申請人等は組合総会に於て解散決議をなすには旧組合の規約により先づ委員会の協議決定を経た上でなければならないのに、右決議は右手続を経ていないから該規約に違反し無効である旨主張するのでこの点につき考察すれば旧組合の規約第十七条には総会に諮る事項として規約の変更、労働争議に関する事項収支予算並びに組合費の額及びその徴収方法の外委員会に於て必要と認むる事項を列挙して居り、同第二十条には委員会に諮るベき事項として総会に諮るべき事項を挙げていること及び本件決議が委員会の決議を経ていないことは当事者間に争のないところであつて、右両規定を一見すれば一応総会に諮る事項は第十七条の列挙事項に限られ、従つて解散問題も委員会の決定を俟つて附議すべきものゝ如く思われるのであるが、翻つて成立に争のない甲第一号証(旧組合の規約)によれば同規約には委員会は定期総会から次期総会迄の間に於ける組合の決議機関で、委員と執行委員とを以て構成し(第十九条)、委員会の諮問事項は前記の如く総会に諮るべき事項の外「その他組合運営に関する事項」とし(第二十条)委員は委員会に於て決定した事項については総会に於て決議権を有しない(第二十三条)ものと定めていることを認め得るのであつて右事実と総会は組合の最高決議機関で委員会の構成員たる委員、執行委員全郎は総会の構成員であること当事者間に争のない事実とを彼此対照して検討すれば、委員会は総会が開かれていない間に於ける補助的決議機関であつて、総会に対し議案を提出し得る権限を有し、殊に右期間内に委員会に諮られた事項中特に重要で補助的決議機関たる委員会のみで決議執行することを不相当と認め最高決議機関たる総会に諮ることを適当と認むる事項を総会に諮るものと定めたものと解するを相当とし、第二十三条は反面に於て委員会の決議を経ずして総会に附議せられる事項の存することを裏書して居り、総会開催中に総会に諮るべき重要事項が生じた場合一応委員会を開きこれに諮る煩を避け、直接総会に附議することを禁止する趣旨とは到底解し難いので右主張は理由がない。次に申請人等は組合解散問題の如き重要問題は規約上遅くとも会日の五日前に議案、日時、場所を各組合員に通知して招集せられた組合総会に於てのみ決議し得るもので、開会中の動議等により決議し得るものではないのに右決議は右所定の手続によらないで招集開催せられた臨時総会に於て而も開会中一部の者の発言に基き附議せられたものであるから右規約に違反し無効である旨主張し、旧組合規約上、総会は役員たる委員及び執行委員及びこれを除く組合員中より各課班を単位として各課班の員数の三十パーセントの割合により総会の都度選出せられた代議員を以て構成せられるものであること、同規約第十八条に総会の招集は原則として遅くとも会日の五日前に議案日時、場所を組合員に通知してこれをなすことを要し、但し緊急を要する場合はこの限りでない旨を定めて居り、本件臨時総会が右原則的規定によらず、但書の規定により招集せられたものであること及び解散問題が当初より予定せられた議題でなく、総会開催中に初めて明示せられて附議せられたものであることは当事者間に争のないところであるが、特に解散の可否を附議する場合の組合総会の招集手続については規約第十八条但書の規定によることを得ない旨の規定がないのみならず、代議員は前記選出方法及びその性質に鑑み議題の如何によりその顔触れを異にする必要は認められず、従つて予め通知せられた議案についてのみ議決権を有するのではなく、一且選出せられた以上総会の招集方法が第十八条但書の規定によるものであると否とを問わず、全面的にその当時に於ける組合員の意思を代表して議決権を行使するもので随時必要に応じて如何なる議案をも即ち解散問題をも審議し得るものと解すべく、又総会開催中に於ける議案提出の方法に関し議事規則と認むべきもつのゝない本件場合苟くも総会の席上総会構成員の一部より口頭により本件解散問題が提出せられたこと当事者間に争がなく証人大賀春光の証言及び被申請組合代表者齊藤留藏本人訊問の結果(第一回)により解散問題を議案として附議することについて議長より総会に諮つた結果これを議案とすることに決定した事実が認められる以上本件解散決議案は総会開催中の提案としても何等瑕疵はなかつたものであり、従つて右主張も亦理由がない。(尤も組合解散と云うが如き組合自体の存廃、各組合員の資格の得衷に係る重大問題は出来得る限り通常の手続に従い予め組合員に議案として通知し十分検討の余裕を与へ、組合員各自の意思を代議員の議決権行使に十分反映せしめることが望ましいのであるが、被申請組合代表者齊藤留藏本人訊問の結果(第一回)によれば右旧組合解散新組合設立後同年八月二十七日米軍政府係官に於て解散問題につき無記名投票により組合員全部の意見を徴したところ、旧組合解散に賛意を表した者が絶対多数を占めた事実を認め得るので右の如き点についても何等非難すべきものがなかつたことを察知し得る。)次に申請人等は採決に当り議長を無視して威圧干渉が行われ、又議決権を有しない者が議決に参加して居たから採決方法が違法であつて本件解散決議が無効である旨主張し、右決議に議決権を有しない大会書記二名傍聴者一名が参加していたことは被申請人等の認むるところであるが、右三名を除いても解散賛成者は法定の四分の三以上の多数であつたことは当事者間に争のないところであるから右事実のみでは本件決議を無効とすべき理由とはならず、他に申請人等主張の如き採決方法に関する欠陥があつたことを認むべき何等の疎明もないので右主張も亦採用し難い。以上認定の如く右解散決議には何等申請人等主張の如き違法の点は認められず、右決議は適法有効であつて、旧組合はこれにこり解散したものと謂はねばならぬ。次に被申請会社のなした申請人等に対する前記解雇が労働組合法第十一条に違反するや否やの点について判断すれば、被申請会社が右解雇に際しその理由を明示せず、該解雇の同法条違反問題審議のため開かれた熊本地方労働委員会の第二回委員総会に於ても被申請会社がその理由を明かにしなかつたことについては当事者間に争がないこと本件に於て被申請会社が労働能率の低かつたことゝ人件費節減の必要とを解雇の理由として主張し乍ら、これが具体的事実につき何等主張疎朋をなさず、従つて右は真の解雇の理由とは認められないこと証人魚住進の証言(後記措信しない部分を除く)により認め得るが如く被申請会社に於て本件解雇理由の一として申請人等が従業員間に於て紛争を起し一般従業員の能率を低下させた旨を主張していること右解雇直前に於ける前記臨時総会に於て申請人白井辰喜が被申請会社々長の組合を御用化せんとする陰謀あり、これに組合幹部が乗ぜられている旨指摘し、これが組合員間の内紛問題として右総会に附議せられた結果、解散決議に迄発展した事実及び旧組合と新組合たる被申請組合とはその規約及び被申請会社との間に締結した労働協約に於て殆んど同一であつて右内紛問題以外に解散の必要がなかつた事実につき当事者間に争のないこと前記の如く解散数日後の昭和二十四年八月十七日には早くも新組合が設立せられていること申請人白井辰喜本人訊問の結果(第一回)により窺知し得るが如く被申請会社が右新組合設立の動向を十分熟知し乍ら、(この点に関する証人魚住進の証言は右申請人本人訊問の結果との対照上措信しない。)新組合の設立を待たずその空白期間に一挙に申請人等全部を解雇したこと本件に於て被申請会社が終始一貫して右解雇が旧組合解散後新組合設立前の空白期間に行われたものであるから労働組合法第十一条にも又労働協約にも違反しない旨強調していること申請人等が組合に於て前記の如き地位を占めていたこと並びに申請人等が右解散問題について反対の表決をなし同一歩調にあつたこと(この点については当事者間に争がない。)を綜合して考察することにより右解雇は申請人等が平素組合活動をなしたことを真の理由とするもので、組合紛糾問題に於て反面旧組合を御用化せんとする陰謀ありとして会社側の態度を非難した申請人白井辰喜とこれに同調する他の申請人等に対する被申請会社当局者の反感が直接原因となり、右組合員間の軋轢を機として組合解散後の空白期間に乗じ、申請人等を解雇したものであることを推知することができる。而してその組合活動が労働組合法第十一条に所謂正当な組合の行為に該当するや否やを考究すれば、解雇の直接原因となつた申請人白井の前記会社及び組合幹部に対する非難攻撃は、他に特段の証拠のない限り組合の浄化粛正、団結の強化を企図したものと認むる外ないのであるが、(果して現実に右目的を達したか否かはこの際問うところではない。)凡そ同法条が正当な組合の行為をなしたことを理由として解雇することを禁止する所以のものは、労働組合の団結権を擁護し組合をして使用者と対等の地位を確保せしめんとするに在るものと謂うべきであるから、直接使用者と団体交渉を行う等対外的活動のみではなく、組合内部の活動であつても使用者がその内部的紛争に干渉して自己に好都合ならざる一派を解雇することも亦同法条の禁止するところと解すべく、申請人等の平素の組合活動に至つては特に反証のない限りその活動は正当なものと推認する外ないものと謂うべきである。被申請会社は旧組合解散後新組合設立前即ち労働組合の存在しない間の解雇には同法条は適用がない旨主張するが、組合解散後は使用者は何等の制限なく労働者が嘗て組合活動をなしたことを理由として解雇し得るものとすれば、労働者は将来何等かの都合により組合が解散した場合、過去に於ける組合活動を理由として解雇せられる危険に直面することゝなり、従つて解散前に於ても右の如き将来の危険を慮り、心理的に組合活動に制約を受けることゝなるので、組合解散後の解雇についても同法条は適用あるものと解すべきであるから、被申請人の右主張は理由がない。以上の如くであるから本件解雇は明かに強行法規たる労働組合法第十一条に違反するもので、無効であると認めざるを得ない。果して然りとすれば申請人等は被申請会社に対し右解雇の無効であることの確認を求むるにつき確認の利益を有するものと謂うべく、申請人白井辰喜本人訊問の結果(第一回)によれば申請人等は右解雇により被申請会社より給与を受くることを得ず。現下物価騰貴の折柄生活困難に直面し、この侭本案判決確定を待つに於ては著しい損害を受くるであろうことを容易に察知し得るから、右損害を避けるため本案判決確定に至る迄申請人等が仮りに被申請会社の従業員であると云う地位を定める必要のあること論を待たないところである(被申請会社は既に地方労働委員会に於て解散を有効なりと裁決した以上、右地位を仮定す仮処分は仮処分としての必要の限度を超えるものである旨主張するが、右認定の如く解散の有効無効に拘らず申請人等に対する解雇が無効であり、該解雇により申請人等に著しい損害の発生する虞れのある以上、他に特別の事情の存しない限り右仮処分は必要の限度を超えるものとは認められない。仍て本件仮処分申請中右申請人等の地位の仮定を求むる部分は正当であるからこれを許容し、その他被申請人両名に対する関係の仮処分申請は前記の如く旧組合の解散が有効なる以上他の争点につき論及する迄もなく失当であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用し主文の如く判決する。

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